本年度はアセトアセチルCoA合成酵素の脂肪組織における生理的意義の解明を目的に、以下のような実験を行った。 本酵素の脂肪組織における影響を見る目的で、本酵素遺伝子の一過性過剰発現系の構築を目指した。昨年度のsiRNA法と同様にリポフェクション法による外来遺伝子の導入によって前駆脂肪細胞(3T3-L1細胞)における本酵素遺伝子の過剰発現を行ったが、脂肪細胞の短期間の培養では目立った表現系は観察されなかった。また、長期間培養では内在性AACSの発現量に減少傾向が見られた。現在、長期間に渡りsiRNA及び本酵素遺伝子が安定に発現する系の構築を試みている。 また、本酵素遺伝子の上流配列に存在する転写活性化部位の同定をルシフェラーゼアッセイ法により検討した。その結果、脂肪細胞分化時にはC/EBP類の結合する配列が特に重要であることを示唆するデータが得られた。今後、ゲルシフトアッセイ法を用いて詳しい検討を行う予定である。 また、本酵素遺伝子は他の組織に比べ雄の皮下脂肪組織において顕著に高発現していることが明らかになっている。本年度は脂肪細胞の大きさと本酵素遺伝子の発現量の相関関係という観点から検討を行った。成体ラットより脂肪組織を摘出し、脂肪細胞の直径によって四段階に分け、各々の本酵素遺伝子発現量を雌雄で比較した。その結果、本酵素遺伝子は主に直径100μmの脂肪細胞で発現していることが明らかとなった。また、腸間膜部ではどの大きさの脂肪細胞でも本酵素遺伝子発現量に雌雄で変化は無かったが、皮下部では200μm以上の大きさを持つ脂肪細胞で雄でのみ顕著な発現が見られた。このことから、本酵素遺伝子は雄の皮下部に存在する巨大脂肪細胞で特異的な発現をすることが明らかとなった。今後は、脂肪細胞の大きさと本酵素による脂質合成への影響、並びに性ホルモン類との間にある関係を解明することを目指して実験を進める予定である。
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