これまでに、2次元電気泳動とレクチンブロッティングを用いて、老化に伴うシアロ糖タンパク質の変化を検出してきたが、2次元電気泳動におけるサンプルの可溶化やゲル内消化産物の質量分析計による同定の段階での回収率低下のため検出感度が十分に得られず同定には至らなかった。そこで本年度は、この問題を解析するために、シナプトソーム画分を分画することなく直接酵素消化にかけ、シアル糖ペプチドをレクチンカラムにより精製し質量分析計することで、精製の手順を簡素化し、糖ペプチドの回収率を向上させる方法を開発し、更に多段階MS^nを行なうことで、糖ペプチド糖鎖の構造解析と、糖タンパク質の同定を試みた。更にこのシステムを用いて老化に伴うシアロ糖ペプチドの変化を解析した。 標準シアロ糖タンパク質としてヒトトランスフェリン約1nmolを用い、このプロテアーゼ消化物を、Siaα2-6結合を特異的に認識するSNAレクチンを用いて精製し、MALDI-TOF/MSを用いて解析した。この糖タンパク質は2ケ所のアスパラギン結合型糖鎖による修飾部位が存在するが、リシルエンドペプチダーゼにより消化することで、理論値と一致する糖ペプチドが検出され、シアロ糖ペプチドを効率的に回収することができた。このイオンを多段階MS^nにより解析したところ、複合型2本鎖由来の断片イオンが検出され、更にペプチド部分の断片イオンから糖ペプチドの配列が決定し、糖鎖修飾部位の情報が得られた。 この方法を用いて若齢(9週齢)、老齢(30月齢)のラット海馬由来のシナプトソーム画分を解析したところ、質量数2800付近に若齢ラット特異的なイオンが検出された。今後これらを同定することで、老化に伴うシナプス表面の変化が分子レベルで明らかになると期待される。
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