研究概要 |
スフィンゴシン1リン酸(S1P)は、単純な構造を持つ生理活性リゾホスホリン脂質であるが、ほとんどすべての細胞・臓器・組織に対して強力かつ多彩な作用(細胞増殖・分化・細胞死・形態変化・遊走・浸潤など)を示し、各種疾患・病態に関与することが知られている。その生理作用は細胞膜に存在するG蛋白質共役型受容体を介するが、現在までに哺乳動物において互いに相同的な5種類のS1P高親和性受容体(S1P_<1-5>)の存在が明らかとなっている。S1P受容体の一つS1P_2受容体の遺伝子欠損マウスは、米国MacLennanらのグループと我々のグループにより互いに独立して作製・解析・発表された。MacLennanらはS1P_2受容体欠損マウスに神経細胞の異常興奮とてんかん発作を確認した。我々が作製したS1P_2受容体欠損マウスにはこれらのはっきりとした徴候を確認できなかったが、最近我々もS1P_2欠損マウスの遺伝的背景をC57BL/6Nへと純化させていく過程でてんかん発作を観察した。S1P_2欠損マウスの脳神経系の異常を調べる目的で、今回S1P_2欠損マウスの大脳・海馬における遺伝子発現をマイクロアレイにより解析した。11週齢から15週齢までのS1P_2欠損マウス(♂3匹♀3匹)とコントロールである野生型マウス(♂5匹♀5匹)から大脳皮質と海馬を単離し、それぞれからトータルRNAを調製した。アフィメトリックス社のGene Chipを用いて、発現する遺伝子を解析した。約6,000種類のマウス完全長既知遺伝子から、すべてのサンプルにおいて有効なシグナルが得られた(DetectionがPresent)プローブセットのうち、S1P_2欠損マウス群と対照野生型マウス群において発現差のある遺伝子を探索した。その結果、S1P_2欠損マウスの両組織においては、酸化的ストレスによる誘導されるメタロチオネインや神経細胞死に伴うグリオーシスを反映するGFAP遺伝子の高発現、アルツハイマー病で発現が下がる転写因子GIFの低発現などが観察された。
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