研究概要 |
S1P2ホモ欠損マウスの遺伝的背景をC57BL/6Nに近づけていった結果、3週齢から5週齢にかけて自発的散発的なてんかん発作が観察され、おそらくその結果としての35%のホモ欠損マウスの個体死が観察された。8週齢以降まで生き残るホモ欠損マウスにおいては、4週齢以降に顕著な成長遅延が観察されたが、これはてんかん発作が観察され始める時期と一致する。この時期の神経系の正常な発達にS1P2が関与していると考えられる。したがって8週齢以降まで生き残るS1P2ホモ欠損マウスも、おそらくは死に至らずともその時期にてんかん発作や神経細胞の異常興奮を示しており、それにより蓄積されたストレスの影響による成長遅延が起こると考えられる。マイクロアレイ法、Taqman PCR法、免疫染色法により、頻発する神経異常興奮による神経細胞死を示唆するAP-1転写因子遺伝子群(c-fos, fosb, junb)の発現減少や、それに付随するGliosisを反映するGFAPの発現増大が、大脳皮質あるいは海馬で検出された。これら遺伝子の発現変化は、マウスてんかん誘導モデルとして汎用されているカイニン酸によるてんかん発症後にも観察されるものである。観察したS1P2ホモ欠損マウスの大脳皮質・海馬における遺伝子発現の変化は、脳内の大きな可塑的な変化といえる。今回調べた範囲では、S1P2ホモ欠損マウスに運動協調性、学習能力などの行動に異常は見られなかった。しかしながら、S1P受容体作働薬の臨床応用への期待が高まっている今、S1P2受容体の機能欠損がてんかん発症や神経興奮などの作用を起こしうることは重篤な副作用につながる可能性を示唆する点で極めて重要であり、今後さらに詳細な行動解析を続け、てんかん発症メカニズムを探る。
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