これまで、私たちの研究グループでは、低分子量分子シャペロンであるHsp27およびαBクリスタリンのリン酸化の生理的意義を明らかにすることを目的に研究を進めてきた。今年度は、リン酸化型αBクリスタリンと相互作用する蛋白質を、αBクリスタリンのリン酸化部位をアスパラギン酸残基に置換した変異体をbaitとした酵母two-hybrid法によって検索した。いくつかの陽性クローンを得て、配列解析を行ったところ、αBクリスタリン、DnaJファミリーに属する分子シャペロンであるMRJ、アダプター蛋白として知られるSKAP55Rやこれまでにアミノ酸配列が報告されていない未知の蛋白質などであることがわかった。Two-hybrid法で得られたこれらのcDNAは、すべて、部分配列であったので、それらの全長のcDNAをRT-PCR法によって取得して、全長のクローンとリン酸化αBクリスタリン変異体が相互作用するのか、two-hybrid法で確認したところ、SKAP55Rのみが陽性であった。また、酵母において、野生型αBクリスタリンもSKAP55Rと相互作用がみられたので、αBクリスタリンのリン酸化は、SKPA55Rとの複合体形成に必須ではないと推測された。SKAP55Rは、SrcファミリーチロシンキナーゼのFynに結合する蛋白質であるFYBと複合体を形成するアダプター蛋白で、その蛋白質構造中に、シグナル伝達に関連する多くの分子が保持しているPHドメインやSH3ドメインを持つことや、血球細胞の分化に関与していることなどが報告されているが、その細胞内における機能についてはわかっていないことが多い。現在、SKAP55Rの哺乳動物細胞内での発現系を確立する準備を進めており、今後は、免疫沈降法などの方法により、αBクリスタリンとの複合体形成が見られるか検討するとともに、SKAP55Rの細胞内での機能解析を行っていく予定である。
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