機能的設計に基づいた人工アジュバントの開発

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15790069
• 研究機関: 大阪府立成人病センター研究所
• 研究代表者: 赤澤 隆 大阪府立成人病センター研究所, 免疫学部門, 研究員 (80359299)
• キーワード: 腫瘍免疫 / アジュバント / 自然免疫 / Toll-like redeptor / 樹状細胞 / 抗原提示 / 抗癌免疫療法 / BCG-CWS

研究概要

ウシ結核菌弱毒化ワクチン株(Bacillus Calmette Guerin:BCG)の細胞骨格成分(Cell Wall Skeleton:CWS)は古くからアジュバントとして知られ、当センターで術後の癌患者さんに臨床応用している。BCG-CWSはToll-like receptor(TLR)-2及び-4を介して樹状細胞を成熟化させることが当研究室から報告されており、これが臨床での抗癌効果のメカニズムと想定されている。
報告者は今回、C57BL6マウスと同種由来B16メラノーマ細胞を用いた腫瘍移植モデルにおいて、BCG-CWSと不活化B16を癌抗原として事前免疫を行うと、B16に対するCytotoxic T Lymphocyte(CTL)を効果的に誘導し、移植したB16の退縮効果が認められること、また、ノックアウトマウスを用いた実験から、これらの効果がTLRのadaptor分子であるMyD88に依存的であることを報告した(Cancer Res.64:757,2004)。また、武田薬品・発酵研の微生物化合物ライブラリーを用いた検討では、in vitroでTLR2のリガンドとして既知のLipopeptide様の構造に樹状細胞活性化能が認められ、BCG-CWSよりも高用量ではあったが、in vivoにおいても腫瘍の退縮効果・CTL誘導を示す化合物があった。投与用量を考慮するとBCG-CWSにはさらに効果的なドメインが存在することになり、我々はこれがBCG-CWSの持つ糖鎖による貪食サポート構造であると予想している。また、BCG-CWSと同時投与する抗原について検討するため、B16で既に同定された癌抗原であるTyrosinase related protein -2のペプチドを用いて、同様の実験を行ったところ、腫瘍退縮およびCTL誘導効果を確認することができた。これより、アジュバントに付与する癌抗原は既存のペプチドワクチンとの併用で補えることが示唆された。
今後、MyD88経路を活性化するTLRリガンドに人工的に貪食サポート構造(糖鎖や抗体のFc領域など)を融合したものを設計し、アジュバント活性を検討していく予定である。

研究成果

• [文献書誌] H.Oshiumi, M.Matsumoto, K.Funami., T.Akazawa, T.Seya.: "TICAM-1, an adaptor molecule that participates in Toll-like receptor 3-mediated interferon β-induction."Nature Immunol.. 4. 161-167 (2003)
• [文献書誌] J.Uehori, M.Matsumoto, S.Tsuji, T.Akazawa, O.Takeuchi, S.Akira, T.Kawata, I.Azuma, K.Toyoshima, T.Seya.: "Simultaneous blocking of human Toll-like receptor 2 and 4 suppresses myeloid dendritic cell activation induced by Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin peptidoglycan."Infect.Immun.. 71. 4238-4249 (2003)
• [文献書誌] T.Seya, T.Akazawa, J.Uehori, M.Matsumoto, I.Azuma, K.Toyoshima.: "Role of Toll-like receptors and their adaptors in adjuvant immunotherapy for cancer."Anticancer Res.. 23. 4369-4376 (2003)
• [文献書誌] Y.Saito, Y.Yoshida, T.Akazawa, K.Takahashi, E.Niki: "Cell death caused by selenium deficiency and protective effect of antioxidants."J.Biol.Chem.. 278. 39428-39434 (2003)
• [文献書誌] T.Akazawa, H.Masuda, Y.Saeki, M.Matsumoto, K.Takeda, S.Akira, I.Azuma, K.Toyoshima, T.Seya.: "Adjuvant-mediated tumor regression and tumor-specific cytotoxic response are impaired in MyD88-deficient mice."Cancer Res.. 64. 757-764 (2004)
• [文献書誌] 上堀淳二, 赤澤隆, 松本美佐子, 瀬谷司: "BCG細胞壁骨格による樹状細胞の活性化とTLR"臨床免疫. 40(3). 248-253 (2003)
• [文献書誌] 瀬谷司, 上堀淳二, 赤澤隆, 松本美佐子: "BCG細胞壁骨格(CWS)による樹状細胞の活性化の分子機構"Annual Review免疫 2004. 216-223 (2003)
• [文献書誌] 赤澤隆, 松本美佐子, 瀬谷司: "アジュバントを利用した樹状細胞の活性化と癌免疫療法への応用"現代医療. 35(8). 139-145 (2003)
• [文献書誌] 瀬谷司, 松本美佐子, 赤澤隆: "抗腫瘍免疫における自然免疫系の役割"血液・免疫・腫瘍. 9(1). 17-23 (2004)