動的な生命現象を生きた状態でリアルタイムに観察することは生命科学研究の基本となる。私は多様な役割が報告され、真の生理作用が混沌としている一酸化窒素(NO)を高感度・特異的に測定できる新規蛍光色素であるジアミノフルオレセイン(DAF)類を創製し、NO生成の時空間解析を目的とした可視化(イメージング)法を開発してきた。生物個体レベルでのイメージングも重要であるが、励起光が蛍光色素に届くことが必要であることから、可視光励起であるDAFを用いるin vivo測定は体表面付近に限局されてしまう。そこで、生体組織透過性のよい近赤外領域で励起可能で蛍光を発するNO感受性蛍光色素を次のように分子設計・有機合成した。 近赤外光領域の蛍光団として知られているトリカルボシアニンの蛍光をPhotoinduced Electron Transfer(PET:ここでは光励起により空になったシアニンのHOMO軌道にelectron richな芳香族ジアミンから電子遷移が起き、励起電子が元の軌道に戻れず蛍光を発せなくなる現象。)により消光させておき、NOと反応することでPETの解除が起こり、近赤外蛍光が回復することを予測しつつ、NOセンサー部位であるジアミノベンゼンを導入した。 そのようにして合成されたジアミノシアニン類はNOと反応することでトリアゾール体となり、790nmにおける蛍光強度が増大した。すなわち、近赤外光領域でのPETによる蛍光制御を当初の設計通りに達成できた。
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