本年度はラット肝臓由来培養細胞(TRL 1215)にカドミウム(Cd:0-2.5μM)長期間(10週間)曝露による細胞の形質転換と悪性化について検討した。Cdを長期間したところ、細胞の形態学的変化が観察された。そのうち2.5μM Cd曝露された細胞のダブリングタイムは無処置群の約2倍に増加していた。また、細胞の悪性形質転換の指標である浸潤能をMatrigel invasion assay法により検討したところ、Cd長期曝露された細胞では増長されていた。さらに、培養液中の血清濃度を低下させた条件化でもCd長期曝露された細胞は無処置の細胞に比べ、明らかな成長の増大が観察された。これらのことから、Cd長期間曝露により、細胞を形質転換させ悪性化も増大されていた。次にDNAメチル化状態を検討したところ、Cdは精製されたDNAメチル基転位酵素活性を強く阻害するにもかかわらず、Cdを10週間以上曝露した細胞内のDNAは広域でhyperメチル化が起こっていた。このhyperメチル化の出現は細胞が形質転換を起こした時期と一致する。これらの結果はCd発ガンの重要なメカニズムの1つとして、異常DNAメチル化状態の誘導が関係していることを示唆するものである。一方、Cdを10週間以上曝露した後、Cdを除いた培養液に換え4週間培養しても、DNAのhyperメチル化が引き続き維持されていた。また、このCdによるDNA hyperメチル化による、特定遺伝子発現に対する影響を調べる為に、プロモータ領域にCpG islandが存在しDNAメチル化により発現は調節されることが知られているメタロチオネインのbasalレベルでの発現量を検討したところ、予想したようにDNAのhyperメチル化状態に対応してメタロチオネインの発現量が減少していた。このことより、これら2つの現象間には明らかな関係が存在することが明らかとなった。今後、マイクロアレーを用いてCd長期投与による発ガンに関係する遺伝子を明らかにし、その発現にDNAメチル化が影響していることを証明していく予定である。
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