遺伝子ベクターを最適化する上で、エンドソームから細胞質への脱出と、それに引き続く核膜透過過程の効率を定量化する事は重要である.本研究においては、共焦点レーザー顕微鏡により得られる画像を基に定量化を試み、細胞内動態の定量的解析法を構築した。さらに、PCRを用いて、核内への遺伝子到達量を測定する系についても確立し、これらを用いて各種遺伝子導入法の違いによる細胞内遺伝子動態の比較を行った。stearyl R8及びlipofectAMINEによる導入時においては、R8と比較してendosome/lysosomeからの脱出過程とそれに伴う核内移行過程が非常に早い事が明らかとなり、遺伝子発現活性と矛盾をしない結果となった。また、stearyl R8を用いた導入においては、エンドソームの脱出とそれに続く核膜透過が時間依存的に上昇するのに対し、lipofectAMINEを用いた際には、特に30分という非常に早い時間で細胞質や核に遺伝子が移行する事が明らかとなり、エンドサイトーシス以外の経路を介した取込み機構の存在と、効率的な核移行性が示唆された。このような細胞内遺伝子定量解析は、遺伝子ベクターの新たな細胞内挙動メカニズムを明らかにするのみでなく、核指向性新規遺伝子ベクターの開発に有用であろうと考えられる。 現在、この実験系を用い、より究極的な課題として、なぜウイルスは人工ベクターと比較して遺伝子発現が悪いのかを細胞内動態の観点から明らかにする事を試みている.
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