緊急安全性情報や厚労省の通達によって、インフルエンザ脳炎・脳症への非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の関与が指摘されている。その特徴は、脳内でインフルエンザウイルス(IFV)が検出されないこと、血清・脳脊髄液において炎症性サイトカインが高く検出されること、脳血管の損傷が認められることであり、脳血管透過性の亢進や血液脳関門(BBB)の破綻とも密接に関与すると考えられる。本研究では、IFV感染時のNSAIDs投与が脳血管透過性と炎症性サイトカイン濃度に与える影響について検討した。また、in vitroのBBBモデルの透過性に対する炎症性サイトカインの作用を検討した。 IFV(A/PR/8/34(H1N1))を経鼻感染させたDBA/2Crマウスを使用した。感染後12時間毎にジクロフェナクナトリウム(DCF)または他のNSAIDsを腹腔内投与し、感染50時間後にfluoresceinの脳血管透過性、血清・脳組織中のTNFα、IL-1βおよびIL-6濃度を測定した。Transwellを用いてウシ脳毛細血管内皮細胞とラットアストロサイトを共培養した。IL-6を単独またはTNFαとIL-1βを併用添加し、経時的にTranscellular endothelial electric resistance(TEER)値を測定した。 IFV感染マウスへのDCF投与により、脳血管透過性が亢進し、脳組織中IL-1βと血清・脳組織中IL-6が増加した。DCF以外のNSAIDsによっても血清中IL-6は増加した。In vitroのBBBモデルにおいて、TEER値はIL-6により濃度依存的に低下し、TNFαとIL-1βの併用によりさらに低下した。以上より、NSAIDsによる本症の重症化には、これら炎症性サイトカインの増加が関与していることが示唆された。
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