薬物腎排泄における各トランスポータの重要性や機能分担を明らかにすることを目的として、本年度はヒト有機イオントランスポータの機能解析並びにヒト腎組織切片中への基質取り込みについて解析した。 ヒト有機アニオントランスポータの機能解析 正常腎組織ではhOAT1とhOAT3が他の薬物トランスポータと比較して高い発現量を示しており、薬物腎排泄において主要な役割を果たすと考えられる。これらトランスポータの機能解析を効率的に進めるため、ヒト胎児腎由来293細胞を用いて安定発現細胞系を構築した。尿細管分泌されるセフェム系抗生物質、セファゾリンやセフジニル、セフチブテンのhOAT3発現細胞への取り込みは、hOAT1発現細胞と比較して顕著に高かった。従って、これらのセフェム系抗生物質がhOAT1よりもhOAT3を介して腎組織中へと移行することが示唆された。 hOAT1やhOAT3が尿細管側底膜に発現するのに対し、hOAT4は刷子縁膜に発現する。これまでに腎機能検査薬フェノールスルホンフタレイン(PSP)はhOAT1及びhOAT3によって輸送されることを明らかにしてきたが、さらにhOAT4によるPSP輸送を確認した。また、セファゾリンやセフジニル、セフチブテンもhOAT4によって輸送されることが明らかとなった。従って、これらアニオン性薬物はhOAT1及びhOAT3によって腎組織中へ移行し、hOAT4によって尿細管管腔側へと排出されことが示唆された。 ヒト腎組織切片中への基質取り込み hOAT1の代表的基質であるパラアミノ馬尿酸及びhOAT3の代表的基質であるエストロン硫酸の、腎組織切片への取り込みについて検討した。これらの基質は時間依存的に腎組織中へと取り込まれ、組織内の蓄積量には個体間で最大4倍の差が認められた。今後、腎組織への薬物移行について検討する予定である。 以上、本年度は有機アニオントランスポータの機能解析のために安定発現細胞を構築するとともに、腎組織切片中への基質取り込み評価系を構築した。今後、両実験系における薬物輸送特性を比較する予定である。
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