研究概要 |
食品成分中のポリアミンによる水溶性高分子物質の腸管吸収に及ぼす影響を探索することを目指し、ラット腸管を用いた腸管吸収実験およびCaco-2細胞を用いた膜透過実験を検討した。 1.ラット腸管を用いた腸管吸収実験:SD系雄性ラットを用いてin situ closed loop法により評価した。in situ吸収実験は、ウレタン麻酔下ラットの空腸部分に約10cmのループを作成し、このループ内にポリアミンの存在下、非存在下でFITC-dextran (FD-4,分子量4400)溶液を投与した。投与後経時的に頚静脈より採血し、蛍光分光光度計を用いてFD-4の血液濃度を定量した。前年度、ポリアミンとして15mMスペルミン存在下FD-4の吸収が促進される知見が得られていることから、スペルミンの濃度の影響について検討した。その結果5mMでも顕著な吸収促進作用が認められ、また1mMと低濃度では大きな効果はみられないものの若干の促進作用がみられた。ポリアミンの吸収促進作用はスペルミジンでも観察されたが、プトレシンではみられなかった。 2.Caco-2細胞を用いた膜透過実験:常法により、多孔性フィルター上に約3週間培養したCaco-2単層膜を用いて透過実験を行った。モデル薬物としてFD-4を用い、スペルミンを添加した場合のCaco-2単層膜透過性および膜抵抗値を測定した。その結果、5mMスペルミン添加により膜抵抗値はほとんど変化せず、FD-4の膜透過性の向上もみられなかった。多くの吸収促進剤は上皮細胞間の細胞間隙を開口させ、それにより単層膜実験では、膜抵抗値の低下を伴い水溶性物質の吸収性を著しく促進することが知られている。本研究から、スペルミンは腸管での水溶性高分子物質の吸収において、上皮細胞の細胞間隙経路ではなく細胞内経路を介する吸収に影響を与えている可能性が示された。
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