研究概要 |
脈絡叢は脳脊髄液を産生する器官であるが,その中枢神経系における役割の解明は進んでいない。脈絡叢の分子レベルでの特性を調べる目的で行ったサブトラクション法,RT-PCR法により,脈絡叢が(1)アミロイドベータ凝集抑制因子,(2)脂質代謝関連因子,(3)細胞移動促進因子,(4)解毒代謝因子,(5)NGF,NT-4,GDNF,HGF,bFGF,IGF-II等の神経栄養因子・成長因子を豊富に発現していることを明らかにした。脈絡叢がこれらの機能分子を産生し中枢神経環境を適正化しながら中枢神経機能維持を担っていることが示唆される。 今回我々は,生体内における脈絡叢の中枢神経に対する機能をin vitroで評価するため,トランズウェルを用いた脈絡叢上衣細胞と海馬ニューロンまたは側脳室下領域由来の神経幹細胞との非接触性共培養を試みた。これにより脈絡叢上衣細胞が(1)海馬ニューロンのa)突起伸長を促進すること,b)突起数及びその分枝数を増加させること,c)神経細胞死を長期的に抑制すること,(2)神経幹細胞の分化誘導時にa)細胞死を抑制すること,b)ニューロンへの分化を支持することを明らかとした。更に,脈絡叢上衣細胞の培養上清中にニューロンの突起伸長,細胞死抑制を促進する因子を有することを証明した。 一方,我々は脈絡叢を脊髄損傷部へ直接移植することにより,軸索再生,血管新生を促進しながら効率の良い修復を行えることを示してきた。今回、ラット脳虚血モデルに対し培養脈絡叢上衣細胞を経脳脊髄液的に移殖したところ,アポトーシス,炎症を抑制しながら脳梗塞の発症,進展を抑えることが明らかとなった。このように,中枢神経機構維持能力を持つ脈絡叢上衣細胞の移殖を,様々な中枢神経疾患に応用することによって,傷害を受けた中枢神経の保護と内在性神経幹細胞賦活化による再生を複合的かつ効率的に図れる道が拓けるものと期待している。
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