神経栄養因子の神経細胞死抑制効果は知られているが、生体内ではこの因子を受け取る場所と核のある細胞体が極めて離れている為、従来の方法では標的組織に投与した神経栄養因子に応答する神経細胞体を特定し、細胞内でどの様な変化が起こるのかを検討することは不可能であった。本研究は新生ラット足底に神経栄養因子を投与し、そこに投射するであろう神経細胞体で幾つかのマーカーとなりうるタンパク発現を経時的に観察することにより、神経栄養因子に反応する神経細胞の同定法の確立を試みた。 1.H15年度よりGDNF・NGF・BDNFなどについて検討し、各々段階的な量を新生ラット足底に投与した後、経時的に試料作成し検討した結果、過去の論文から応答する可能性が示唆されるニューロンにおいて特有のパターンを以てc-Fosタンパク質の発現が上昇することを観察した。一方CREBやSTAT3リン酸化など複数のマーカーを検討したが、正常状態で一定の発現がありc-Fosのような明瞭な結果は得られなかった。 2.本方法で応答する神経細胞が投与部位を支配するものか否かを、化学標識した神経栄養因子の逆行輸送により検討した。軸索末端からDigoxigenin標識の因子が取り込まれる事は電子顕微鏡的に確認できたが、検出の技術的問題と予想するが、c-Fos陽性の細胞体でそれを検出することはできなかった。しかし神経切断や軸索輸送ブロック実験によりc-Fos発現誘導に軸索輸送が不可欠であること、また解剖学的に応答した神経細胞の位置と投与部位が一致する為、応答する神経細胞が投与部位を支配していると考えられる。 3.神経栄養細胞に応答した神経細胞とその細胞の神経栄養因子受容体発現に相関が認められた。以上の結果からc-Fosをマーカーとした本方法は、生体に投与した神経栄養因子に反応する神経細胞体を組織学的に効率的に検出する方法となると考えている。
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