研究概要 |
1.研究の背景および目的 血管平滑筋細胞遊走は、血行障害による傷害臓器再生のための機能的な血管新生において重要な役割を果たす。申請者は過去に平滑筋ミオシン軽鎖リン酸化酵素(MLCK)が血管平滑筋細胞遊走を制御する事を発見した実績を持つ。申請者の教室で血管平滑筋の異常収縮のシグナル分子として発見されたスフィンゴシルポスホリルコリン(SPC)は血管平滑筋細胞遊走も引き起こす事が近年報告されている。本研究はリン酸化プロテオミクスの手法を用いてSPCおよびMLCKによる血管平滑筋細胞遊走のシグナル伝達の全容を明らかにし、臓器再生のための血管新生の新たな治療法の標的分子を見出す事を目的とするものである。 2.研究実績 (1)方法 1)ヒト冠状動脈平滑筋細胞(CASMCs)をSPCで刺激し、チロシンリン酸化される蛋白質を抗リン酸化チロシン抗体RC20によるウェスタンブロット法でスクリーニングした。 2)これらの蛋白をRC20による免疫沈降法で抽出し、SDS-PAGEにて分離後、PVDF膜に転写してクマシーブリリアントブルーで染色して蛋白バンドを切り出し、PVDF膜上で蛋白の還元-Sアルキル化処理を行ったのち、プロテアーゼ(Achromobacter Protease I)で消化した。上記の方法は、従来知られているゲルを銀染色した後にトリプシンで蛋白をゲル内消化する方法より、消化効率が優れていた。 3)消化ペプチドをzipChipC18で脱塩後、タンデム型質量分析計(MALDI-TOF-MS/MS, LC-MS/MS)を用いペプチドマスフィンガープリントを行いゲノム情報に基づき分子を同定した。 (2)結果 SPC刺激後にチロシンリン酸化される蛋白が複数認められ、その分子量からp40およびp200と命名した(特許申請の都合上明記できない)。チロシンリン酸化レベルの時間経過は、p40は刺激後5分で最大となり、p200は刺激後30分から60分において最大となった。タンデム型質量分析計による同定では、P40は、phospholipid-binding protein, G-proteinと相互作用する蛋白、および機能未知の蛋白分子が候補として挙げられた。P200は細胞骨格や細胞運動に関連する既知の蛋白であった。チロシンリン酸化のp200の機能に対する影響の報告は無く、p200のチロシンリン酸化が、p200の機能の新規の制御機構である可能性が示唆された。
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