個体の成長の制御については、早くから成長ホルモン(GH)などの効果が明らかにされてきた。しかし、実際に成長を制御するシグナル伝達のしくみは必ずしも明らかではない。MAPキナーゼ(MAPK)は、GHを含む様な刺激で活性化されるが、これまで、個体の成長との関連は明らかにされていない。我々は、p38αMAPK機能を生体レベルで解析する目的で、p38αにsem型の点突然変異を導入したマウス(p38α^<sem>ノックインマウス)を作成した。p38αノックアウトマウスは胎盤形成不全で胎生致死となるが、p38α^<sem>マウスの胎盤形成は正常で生存し、交配も可能あることが明かとなった。p38α^<sem>マウスはp38αの部分的な機能欠損を生じ、興味深いことにsem型マウスは野生型マウスの20%の成長障害を生じた。体重における性差の比較では、雌マウスよりも雄マウスの方が顕著であることを認めた。さらに、sem型マウスが2年齢に達すると野生型マウスの26%の体重低下を示した。その時の組織重量を野生型マウスと比較したところ、sem型マウスの体重当たりの精巣、腎臓、腸管周囲の脂肪重量が60%以上の低下を示した。逆に、sem型マウスの脳、下垂体、肝臓の重量は13-22%の上昇を示し、筋肉重量については16%の低下を認めた。また、野生型マウスの体長と比較した場合、sem型マウスは11%の低下を示した。これは、MAPKがマウスの成長に関わることを示すとともに、脂肪代謝に深く関わっていることを示唆している。
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