生物時計関連転写因子と近似した構造を持ち、生物時計の中枢である視床下部視交叉上核における高い発現が認められる、ステロイドレセプターコアクチベーター(SRC-1)に着目し、いくつかの解析を進めてきた。特に発達期の中枢神経系でのSRC-1の役割を明らかにするため、神経幹細胞を用いて、増殖・分化過程でどのようにSRC-1発現が変化しているかを検討した。まず、胎生12.5齢のICRマウス線条体原基から神経幹細胞を採取しbFGF存在下でニューロスフェアー(NS)を形成した。次にNSを用い増殖・分化過程におけるSRC-1の発現様式をRT-PCR、Western blotting法、免疫細胞染色等を用いて検討した。その結果、NSにおけるSRC-1の発現は小脳、精巣と同程度に認められた。そこで、NSにおけるSRC-1発現細胞を検討したところ、Nestin陽性、BrdU取り込み陽性の増殖期神経幹細胞ではSRC-1の発現がほとんど認められないが、少数の未熟な神経分化細胞(Tuj1陽性)では約60%にSRC-1の発現が認められた。次に、1%FBS刺激によってNSの分化誘導を行った。その結果、神経幹細胞の分化に伴いSRC-1の発現は有意に増加し、未熟な、あるいは成熟した神経細胞でそれぞれ47%、72%の割合で共発現していた。一方、アストロサイト、オリゴデンドロサイトでのSRC-1は、それぞれ約5%で共発現が認められるのみであった。 これらの検討から、SRC-1が神経幹細胞の分化過程において神経特異的に発現することを明らかにした。神経再生医療において、神経幹細胞分化における細胞系譜の特異的な遺伝子発現制御の解明は非常に重要であり、SRC-1が神経特異的な標的遺伝子の転写調節に関与していることが示唆された。
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