動脈硬化や血管形成術後再狭窄に代表される増殖性血管病変は、血管平滑筋細胞の形質転換によるものとされている。中膜の「収縮型」平滑筋細胞が種々の細胞外刺激により「合成型」となって遊走能を獲得し、内膜方向へ移動するらしい。細胞遊走は、筋収縮同様、アクトミオシン系により駆動される。これまで、この駆動は収縮同様、ミオシンがリン酸化されることにより制御されると考えられてきたが、私の所属する研究室でミオシンのリン酸化を介さない制御の存在することがわかってきて、収縮との対比から遊走にも新たな制御様式が存在することが期待されるようになった。一方、骨格筋ではトロポミオシンがトロポニンと複合体をつくり、ミオシンのリン酸化を介さないでアクトミオシン系の制御を行っていることがわかっている。平滑筋ではトロポミオシンは存在するものの、その存在意義の理解は進んでいない。そこで本申請では、トロポミオシンの上流に位置する制御蛋白質を網羅的にクローニングしようと考えるに至りた。15年度は、その準備として、血管平滑筋細胞におけるトロポミオシンの役割の解析を行った。 (1)遊走における役割 血管平滑筋細胞のトロポミオシンをレトロウイルスベクターを用いたアンチセンス法によりノックアウトした。その後、細胞のPDGFに対する遊走能をBoyden's chamber法により定量した。その結果、トロポミオシンを欠失した平滑筋細胞は、遊走能が亢進することが明らかとなった。 (2)収縮における役割 培養細胞から作成したコラーゲンファイバーを用い、トロポミオシン欠失時の収縮力の変化を調査した。平滑筋型トロポミオシンをSiRNAによりノックアウトすると、収縮力は著明に亢進することがわかった。 以上により、血管平滑筋細胞のトロポミオシンは、骨格筋のものと類似した役割、すなわちアクトミオシン系の抑制に働くと考えられる。なおこの結果は、第77回日本薬理学会年会(2004年3月)において発表を行っている。
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