動脈硬化や血管形成術後再狭窄に代表される増殖性血管病変は、血管平滑筋細胞の形質転換によるものと考えられている。血管中膜において専ら収縮に従事している平滑筋細胞が、さまざまな細胞外刺激により形質転換し、血管内腔側へと移動・増殖することにより病変を形成するものとされている。従来の研究により、この細胞外刺激に関しては多くの知見が得られてきているが、細胞内でどのような変化がおこっているのかについては未だ明らかでない点が多い。我々の研究室では、ミオシンリン酸化に依らない新しい平滑筋収縮様式の研究を行ってきた。平滑筋遊走も収縮と同様にアクトミオシン系により駆動されており、収縮との対比から、遊走にも新たな様式の存在が想定される。骨格筋ではトロポニン-トロポミオシン複合体が、収縮制御に中心的な役割を担っていることがわかっている。平滑筋細胞にもトロポミオシンは発現しているのだが、その意義は未だ明らかでない。そこで我々は、血管平滑筋細胞の遊走において、トロポミオシンを介した新たな制御様式を明らかにしようと考えるに至った。具体的方法としてはまず、平滑筋型トロポミオシンに相互作用する分子群を酵母Two-Hybridスクリーニング法により得、その中から遊走に関与する分子の選別を行った。選別は、Two-Hybrid法により得たcDNAインサートを哺乳動物発現ベクターに移し変え、培養血管平滑筋細胞内で発現させ、細胞の血小板由来増殖因子(PDGF))に対する遊走能をボイデンチャンバーにて調べることにより行った。その結果、血管平滑筋細胞においてトロポミオシンは、収縮、遊走ともに抑制していることが明らかになり、またトロポミオシンの相互作用蛋白群中から遊走能を制御していると考えられる蛋白を得ることができた。これらの結果は、血管平滑筋細胞における、トロポミオシンを介した新たな制御様式の存在を示す。
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