平成15年度は、内因性カルシニューリンの小脳登上線維-プルキンエ細胞シナプスの発達・除去への関与について研究を行った。先ず、内因性カルシニューリンの作用を小脳皮質特異的に阻害するため、申請者が改良開発した有機樹脂ポリマー(Elvax)を用いた局所的慢性投与法により、生後発達期のマウスにカルシニューリンの阻害薬(FK-506など)を投与する系を確立した。カルシニューリンはカルシウム感受性の脱リン酸化酵素なので、個々の登上線維シナプスの活動によりカルシウムスパイクが発生するようになって間もない、生後8日目に外科的手術を行い慢性投与を開始し、その後、慢性投与を行った個体をそのまま成長させ、正常個体において登上線維シナプスの発達が完全に完了している生後24日目以降、スライサーを用いて小脳スライス標本を作製し、パッチクランプ用電流・電圧増幅器を用いて、ホールセルパッチクランプ法により、プルキンエ細胞より電流記録を行った。そして、興奮性シナプス後電流(EPSC)のステップ数の測定により、個々のプルキンエ細胞に入力する登上線維の本数を定量し、対照群と比較したところ、FK-506投与群において、登上線維シナプス除去に阻害が見られた。この結果は、生後8日目以降の登上線維シナプスの発達に、内因性カルシニューリンが関与することを示唆している。さらに、現在、この結果に基づき、慢性投与の開始・終了時期を徐々に変え、登上線維シナプスの発達・除去がカルシニューリンの作用を受ける臨界期(感受性期)の特定を試みている。
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