日本における高血圧症患者は3000万人以上と推定されており、国民医療費の中で大きな割合を占めている。従って、効果的な高血圧治療を行うことは医療経済にも極めて大きな効果をもたらす。アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、降圧薬であるばかりでなぐ、心臓や腎臓などに対する臓器保護作用、心血管疾患予後改善効果を有することが大規模臨床試験により実証されている。しかし、その詳細な機序は不明な点が多く残されている。我々はアンジオテンシン変換酵素阻害薬によるブラジキニンの分解抑制作用に焦点を当て、ブラジキニシンよる血管平滑筋細胞増殖の制御機構を解析した。 ヒト大動脈血管平滑筋細胞を培養して、ブラジキニンを24時間作用させ、DNA合成の変化をBrd-U取り込みにより検討した。ブラジキニン受容体拮抗薬、MAPキナーぜ阻害薬、PI3キナーゼ阻害薬などを用いて、ブラジキニンによる細胞増殖調節への影響を検討した。また、ブラジキニンにより発現調節される遺伝子群を包括的に解析するため、ヒト血管平滑筋細胞特異的DNAマイクロアレイを作製して、ブラジキニンにより発現が誘導される遺伝子群を同定した。 ブラジキニンは、血管平滑筋細胞の増殖を抑制した。この抑制作用は、ブラジキニンB2受容体拮抗薬により阻害されることから、B2受容体を介していることが示唆された。一方、マイクロアレイ解析により、ブラジキニンにより発現誘導される遺伝子群を同定した。この遺伝子発現誘導はB2受容体拮抗薬により抑制された。現在、これらの遺伝子発現変化と、ブラジキニンによる血管平滑筋細胞増殖抑制作用との関連を検討している。 ブラジキニンによるB2受容体を介した血管平滑筋細胞増殖抑制作用は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の臓器保護作用、心血管疾患予後改善効果に密接に関与すると考えられる。
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