プロスタグランジンE2(PGE2)は多彩な生理活性を有し、難治性炎症性疾患や発癌などに密接に関わっている。このPGE2の産生において重要な役割を果たすPGE2合成酵素が転写調節因子Egr-1により転写制御を受けていることを昨年までに見いだしている。また、Egr-1の活性化に至る細胞内情報伝達経路にMAPキナーゼのリン酸化経路が関わること、更にEgr-1の活性化がコリプレッサーであるNAB2によって調節されることも見いだしている。本年度は、これまでに明らかとなった現象が実際の炎症病態において起きているかを実証した。慢性関節リウマチ患者の滑膜細胞や変形性関節症患者の軟骨細胞を用いて、PGE2合成酵素の発現及びEgr-1の活性化を検討したところ、両者の活性化が顕著に認められた。また、レポータージーンを用いた解析で、Egr-1が炎症病態においてもPGE2合成酵素の発現を制御していることが明らかとなった。さらに、NAB2はこれらの病態においてはむしろ発現が抑制される傾向が認められた。このことから、何らかの機序によるNAB2のダウンレギュレーションがコリプレッサーとしてのNAB2の機能を抑制し、PGE2の過剰産生の一因となり、難治性炎症疾患の成因となる可能性が示唆された。このことは、NAB2の様な転写調節の抑制分子が新たな薬剤や治療法の開発に有用である可能性を示唆するものと考えられた。以上の様に得られた知見は今後、炎症性疾患の解明と克服につながる意義深いものである。
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