膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)は基底膜の主要な細胞外マトリックス(ECM)であるラミニン5γ2を限定分解することで、γ2鎖の短腕部よりEGF様の断片を遊離すること、また、遊離したEGF様断片がパラクライン増殖因子として働き周囲の細胞のEGF受容体(EGF-R)を活性化することで細胞運動や増殖を亢進する。しかし、これまでの研究にはラットから精製されたラミニン5が用いられており、ヒトとラット間でのプロセシング部位の相同性が乏しいことから、本現象はラットのみで起こる現象である可能性が報告された。そこで、本研究において、ヒト・ラミニン5を単離・精製し、MT1-MMPによるプロセシングの有無について検討したところ、ヒト・ラミニン5γ2鎖はラットの部位より上流でMT1-MMPによるプロセシングを受けることが明らかとなり、また、このプロセシングによりEGFドメイン(ドメインIII)断片の遊離も起こることが明らかとなった。また、遊離したドメインIII断片はEGF受容体を高発現している乳癌MDA-MB-231細胞の運動を亢進した。さらに、ドメインIIIは足場非依存的に誘発される細胞死の制御に積極的に関わることも明らかとなった。以上、膜型MMPは細胞接着因子であるラミニン5γ2鎖を選択的にプロセシングすることで、細胞運動、MMP発現、細胞の生死などの重要な機能調節に関わることが明らかとなった。
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