目的:水晶体上皮及び性腺由来培養細胞におけるSIX5標的遺伝子、標的分子の検索を行うことで、SIX5の発現量低下がどのような標的遺伝子の発現異常を引き起こし、細胞や組織の性質を変え、DM1における白内障と性腺機能低下症を引き起こすのか、その分子基盤の解明を目指す。 結果:VP16の転写活性化ドメインを融合させた野生型SIX5、及び特異的DNA結合能を欠く変異型SIX5を水晶体上皮細胞、顆粒膜細胞で過剰発現させ、24時間後にRNAを抽出し、2種類のcDNAプローブを合成した。マイクロアレイを用いて野生型と変異型とで発現レベルが2倍以上異なる遺伝子を標的候補として同定した。水晶体上皮細胞で同定した227遺伝子には白内障との因果関係が示されている遺伝子(PITX3、TGFB2、KMO、GJA1)が含まれており、さらに水晶体透明度の維持に不可欠なイオンチャンネルやトランスポーターの遺伝子が複数含まれていた。顆粒膜細胞で同定した310遺伝子には性腺機能低下症との因果関係が示されている遺伝子((CYP19A1、ESR1、NRIP1、GATA4、BDNF)が含まれており、また性腺の形成や機能に関わる可能性の高い複数の遺伝子も含まれていた。10個以上の遺伝子についてRT-PCRによる検証実験を行い、アレイ解析で検出した発現レベルの変動パターンを確認した。こうした遺伝子の発現レベルを局所的に増減させ、白内障や性腺の機能を低下させるという機序が示唆された。 また、Six5タンパク質がCCUGリピート(DM1と類似の症状を発症するDM2で伸長する)にin vitroで結合することを示し、SIX5がRNA結合能を持つ転写因子であることを明らかにした。SIX5はDM2においても白内障と性腺機能低下症の発症過程に関与する可能性が示唆された。
|