研究概要 |
アルツハイマー病(AD)は、脳内のアミロイドβ(Aβ)の過剰な蓄積に起因すると考えられており、この蓄積したAβ量を減少させることがADの治療、予防に有効であることが報告され始めている。我々が標的にしているネプリライシンは、脳内におけるAβ分解の主要プロテアーゼであり、この活性・発現制御機構の解明が、脳内Aβ量の減少によるADの治療・予防法の確立へ大きく貢献すると考えられる。 本研究課題において、まずネプリライシンの活性・発現を制御する因子のスクリーニングを行った。我々が確立したネプリライシン活性染色法(ネプリライシン活性を視覚的にとらえる方法)によりスクリーニングを行った結果、唯一ソマトスタチンがネプリライシン活性を増加させることが明らかとなった。ソマトスタチンは、AD患者の脳内で減少している神経ペプチドの一つとしても知られている。初代培養神経細胞を用いてさらに検討を進めたところ、ソマトスタチンの効果はネプリライシン選択的であることが明らかとなり、ネプリライシン活性を賦活化することで培養上清中のAβ42レベルを低下させることが明らかとなった。 そこで、ソマトスタチン欠損マウスを用いて解析を行った。その結果、ソマトスタチン欠損マウスでは脳内ネプリライシン活性が低下しており、その反作用として脳内Aβ量の増加が認められた。しかもそれはAβ42選択的であることが明らかとなった。さらに詳細に解析を進めた結果、ソマトスタチンはネプリラィシシの発現・活性ばかりではなく、そのプレシナプスへの局在も制御していることが明らかとなった。以上のことから、、ソマトスタチンは、in vitro, in vivoにおいてネプリライシン活性を制御していることが明らかとなり、ソマトスタチン受容体作動薬がADの根本治療・予防のための創薬への有用な候補になりえると思われる。
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