研究概要 |
1)腫瘍内での発現が多様な分子の同定 145例の非小細胞肺がんから4領域筒採取した組織マイクロアレイを用い、同一腫瘍内で、もっとも多様性の高い分子について検索した。その結果maspinが選択された。この分子の発現は同一腫瘍内での発現多様性が著しいのみならず、腫瘍間多様性にも富んでいた。 2)DNAメチル化の多様性への関与 細胞株を用い、遺伝子の5'側のDNAメチル化と発現との関連を検討した結果、両者には相関が観察され、DNAメチル化によって発現が制御されていることが示唆された。そこで、非小細胞肺がんの同一腫瘍内で異なる発現を示す部分を各々microdissectionしてメチル化との関連を検討し、その発現がDNAメチル化と相関することを見出した。同様に、腫瘍間多様性についても、この相関を認めた。これらのことは、腫瘍の多様性を規定する一つの機序として、DNAメチル化が関与していることを示唆している。 3)転移巣との比較 in vitroの結果からmasp並はこれまで腫瘍の浸潤転移と関連する腫瘍抑制遺伝子の一つと考えられてきた。一方で、正常肺組織での発現分布からは中枢気道上皮に特異性が高く、そこから生じたと考えられる腫瘍においてもその発現特異性は保たれていた。そこで、この矛盾した知見を検討するため、リンパ節転移巣での発現態度を検討した。発現が均一な腫瘍では、その発現態度がリンパ節転移巣でも反映されたが、原発巣が多様な発現を示す場合、リンパ節での発現低下を示す傾向が認められた。これらのことから次のような仮説が考えられた。腫瘍は早期では発生母地の発現態度が反映されるが、進展に伴ってgenome-wideなDNAメチル化異常が付加される。その異常の一つの反映として腫瘍内多様性が生じることがあり、それが転移に関与する場合がある。 これらの結果については論文としてまとめ、Oncogene誌に発表した(23:4041-4049,2004)。また、本研究は週数気道上皮で発現が高く、そこから生じた腫瘍との関連を示していた。そこで、その亜型である一群の腫瘍に対象を検討し、種々のマーカーを用いた検討を行いその特徴を明らかとした(J Pathol, 203:645-652,2004)。
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