ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)のLTR-env-pX遺伝子を導入したトランスジェニックラット(env-pXラット)はヒト関節リウマチ(RA)類似の関節炎を発症する。本研究ではenv-pXラットの関節炎病態に導入遺伝子を発現する滑膜組織が重要な役割を果たしていることを明らかにした。ヒトRAにおいても、滑膜の増殖や同細胞が産生するIL-6、IL-8などの炎症性サイトカインが病態に深く関わっている。本研究では、RAの分子制御を目的として、滑膜細胞の増殖や炎症性サイトカイン産生を転写レベルで制御するCREBに注目した。CREBはロイシンジッパー構造をもつ転写因子で、同じ分子ファミリーに属するATF-1と二量体を形成して標的となるDNA塩基配列に結合し、遺伝子転写活性を発揮する。そこで、CREBを競合的に阻害するDominant Negative ATF-1(ATF-1DN)を作製し、env-pXラット由来の関節滑膜細胞に遺伝子導入して、CREBにより転写調節される細胞周期関連分子や炎症性サイトカインの発現変化を検討した。細胞周期関連分子ではcyclin Dには明らかな変化はなかったが、ATF-1DNの導入によりCDK4の発現が減少した。炎症性サイトカインではIL-8ファミリーのGroには変化がなかった一方、IL-6の発現が減少した。また、生体内におけるATF-1DNの関節炎治療効果を検証する目的で、シンビスウイルスベクターにATF-1DN遺伝子を組み込み、腫脹したenv-pXラット足関節に注射した。対照にはlacZ遺伝子を組み込んだベクターを用いた。ATF-1DNの遺伝子導入により、env-pXラット関節炎の抑制傾向が肉眼的並びに組織学的に確認された。以上より、ATF-1DNの遺伝子導入により、滑膜細胞の増殖やIL-6産生が抑制され、RAの治療につながる可能性が示唆された。
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