平成15年度は、成体Wistar系ラットを用いて末梢神経再生モデルの作製に着手した。さらに、損傷坐骨神経の経時的な組織形態像の推移を観察し、血小板由来増殖因子(PDGF)β受容体の発現を免疫組織化学、ウェスタン・ブロット法にて解析した。また、PDGFβ受容体抑制物質であるTrapidil投与により、PDGF-B/β受容体機構の抑制実験の予備的な解析を行った。 正常坐骨神経において、PDGFβ受容体の発現は軸索およびシュワン細胞が主体で、血管内皮細胞や平滑筋細胞にも同発現が観察された。受容体の発現局在は、軸索では表面(axolemma)、シュワン細胞では細胞質表面〜細胞質内にかけて確認された。また、神経損傷早期〜再生期にかけて、浸潤組織球、血管成分、シュワン細胞にPDGFβ受容体の発現増強が窺われ、再生した伸長軸索にもその発現が強く認められた。Trapidil投与によるPDGF抑制ラット群においては、再生軸索の伸長やシュワン細胞の増殖など、神経再生過程に重要な現象が阻害される傾向がみられた。 末梢神経の主たる構成要素である神経軸索およびシュワン細胞は、正常時にPDGF-β、β受容体を豊富に発現し、さらに神経損傷後、再生過程を通してこれらの発現が増強される傾向が明らかとなり、生体内末梢神経に対するPDGF機構の関与が示唆された。さらに、Trapidilを用いた抑制実験から、PDGF-B/β受容体機構が神経再生を促進する一因子である可能性が示唆された。 今後は、PDGFβ受容体の活性化および同受容体下流のシグナル伝達機構を中心に解析し、神経再生におけるPDGFとシグナル伝達機構の解明を試みていく予定である。
|