N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine (MNNG)によるラット胃発がんモデルにおいて、ACI/N(ACI)ラットは感受性、BUF/Nac (BUF)ラットは抵抗性を示す。本研究では、両系統の幽門腺で発現量が異なる胃がん感受性(抵抗性)遺伝子の候補についてトランスジェニックラットを作製し、その発現量の違いが胃発がんに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。研究開始までに、Stearoyl-CoA desaturase(Scd)2遺伝子の発現上昇がラットの胃がんおよび乳がんで認められることを見いだした。昨年度は、ACIラットとBUFラットの胃粘膜で発現量が異なる遺伝子をcDNAサブトラクション及びオリゴヌクレオチドマイクロアレイにより、網羅的に検索した。その結果、Cellular retinoic acid binding protein II (Crabp2)は、BUFラット胃粘膜でACIラットの100倍以上高発現することを見いだし、Crabp2を優先的に解析することとした。本年度は、ユビキタスに発現することで汎用されるヒトEEFlAlプロモーター下流に、SV40 splicing donor及びacceptor部位、ラットCrabp2 cDNA、及び、polyAを結合した。このコンストラクトをCrabp2の発現が非常に低く、胃がん高感受性のACIラットの235個の受精卵に注入、207個の胚を移植した。44匹の産仔中2匹(メス)に1コピーおよび10コピーの遺伝子が導入されていた。現在、交配により、継代を試みている。本研究により得られたCrabp2トランスジェニックラットは、Crabp2遺伝子発現量の違いが胃がん感受性に与える影響を解析するために有用である。なお、本研究は遺伝子組換え生物等の使用などの規制による生物の多様性の確保に関する法律に基づき、研究を実施した。
|