N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine (MNNG)によるラット胃発がんモデルにおいて、ACI/N (ACI)ラットは感受性、BUF/Nac (BUF)ラットは抵抗性を示す。本研究では、両系統の幽門腺で発現量が異なる胃がん感受性(抵抗性)遺伝子の候補についてトランスジェニックラットを作製し、その発現量の違いが胃発がんに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。申請時には、Stearoyl-CoA desaturase (Scd)遺伝子の発現上昇がラットの胃がんおよび乳がんで認められることを見出していたが、平成15年度に、細胞分化に重要な役割を果たすCellular retionic acid binding protein II (Crabp2)は、BUFラット胃粘膜でACIラットの100倍以上高発現することを見いだし、Crabp2を優先的に解析することとした。平成16年度は、Crabp2遺伝子発現量の違いが胃がん感受性に与える影響を解析するため、Crabp2トランスジェニック(Tg)ラットを作製した。背景系統は、ACIおよび胃がん感受性でTgラット作製実績のあるWistarを用いた。本年度は、両系統の胃粘膜におけるCrabp2の発現量と、短期間の胃粘膜障害時の細胞増殖反応性におけるCrabp2発現量の影響を調べた。Wistar背景Tgラットには、その遺伝的なヘテロ性によると思われる発現量の個体差が大きく、ACI系統に戻し交配を行った後、表現形質を解析することとした。一方、ACI背景Tgラットは、安定してトランスジーンを発現しており、以下の実験を行った。胃粘膜障害時の細胞増殖反応性の違いは、胃がん感受性の違いの一要因と考えられている。Tgラットと野生型ラットについて、MNNGを2週間飲水投与した際の胃粘膜における細胞増殖反応性を比較したが、同等であった。従って、Crabp2が胃がん感受性の違いに関与していたとしても、それは細胞増殖反応性の違いによるものでは無いと考えられた。現在直接的に胃がん感受性の違いを評価するために、長期の胃発がん実験を実施中である。
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