膵癌細胞のタンパク質発現プロファイルを蛍光二次元電気泳動法にて作成した。膵癌細胞株は動物への移植実験により、臓器ごとの転移能が判明しているものを用いた。また、正常膵管上皮細胞2株も癌細胞へのコントロールとして用いた。蛍光二次元電気泳動法で作成されたタンパク質発現プロファイルのうち、とくに再現性のよい約700のタンパク質スポットの濃度を変動数として、多変量解析を行った。階層的クラスター解析や主成分分析により、使用した細胞株は大きく、1)正常膵管上皮、2)肺へ高転移性を示した膵癌細胞株、3)その他の膵癌細胞株、と分かれた。サポートベクターマシーンを始めとする機械学習法により、分類に最低限必要なタンパク質スポットを絞り込んだ。スポットの中には、正常細胞株でのみ発現しでいるもの、肺へ高転移性を示す細胞株にのみ発現しているものが含まれた。 次に、重要なスポットに対応するタンパク質をMALDI TOF MSおよびnESI TOF MSによって同定した。タンパク質の同定にはin gel digestion法を用いた。同定されたタンパク質は、酸化還元系の酵素や細胞骨格関連など多種類に及んでいた。いずれのタンパク質も従来の癌のメカニズムからすると機能的に転移と直接つながるものではなかった。タンパク質の中には特定のアイソフォームのみが細胞間で発現に違いがあるものが認められた。翻訳後修飾の違いによって生じたアイソフォームである可能性を検討する目的で質量分析による解析を行ったが、リン酸化などを示唆するデータを得ることはできなかった。また、抗体が入手できるものに関しては、一部Western blottingや免疫染色による確認を行った。 手術材料でも同様の実験を行うべく検体を集めている。 膵癌細胞のタンパク質発現プロファイルについては、現在進めている臓器特異的タンパク質発現プロファイルのデータベースに組み込むことができるフォーマットで、記録している。
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