申請者は、熱帯熱マラリア原虫HB3株とDd2株の遺伝子交配子孫株を用いたポジショナル・クローニングにより、赤血球への侵入能力と関連を示す約100kbの領域を第四染色体サブテロメアに同定した。この領域に存在する25の読み枠には、既知の赤血球結合蛋白の相同体が2つ認められたが、これらは2株間において塩基配列、転写レベル、蛋白の局在などにほとんど差がなかった。そこで、これら以外の、全く未知の読み枠のいずれかが赤血球侵入に関連する分子である可能性がでてきた。今年度は、この新規赤血球侵入関連分子を同定するために、あきらかに関係がないと考えられる遺伝子を除いた遺伝子群について、まず、転写レベルでの差の解析および塩基配列レベルでの多型解析を行った。転写レベルについては2株間で有意に差があるものは認めなかったが、塩基配列レベルでは、複数の遺伝子に関して多型が認められた。熱帯熱マラリア原虫の赤血球侵入関連蛋白の多くで多型現象が見られ、株間における侵入能力を決定する場合があるため、これらの遺伝子産物は強い候補と考えられる。また、DNA免疫により抗血清を作成し、マラリア原虫における細胞内局在を検討したところ、複数の遺伝子産物について赤血球侵入型原虫に発現していることが判明した。二つの結果を総合的に判定した結果、現在のところ2つの遺伝子を候補遺伝子として検討を加えている。来年度はこれらの遺伝子について、ジーンターゲティングの手法を用いて、どちらかの遺伝子がポジショナル・クローニングに用いた赤血球侵入形質に関連しているのかどうかの検討を加える。
|