Trypanosoma cruzi感染による慢性症状の1つとして心筋炎が挙げられる。本研究では、T.cruzi原虫-宿主細胞間の相互作用分子を、原虫の心筋細胞寄生モデルを用いて網羅的に検索した。まず、細胞内寄生型であるT.cruzi無鞭毛型原虫の分泌蛋白質(Ama-ES)と反応するヒト心筋細胞cDNAファージライブラリーのスクリーニングを行った結果、ヒト側の候補蛋白質分子の1つとして、scaffold attachment factor B(SAF-B)が得られた。そこで次に、SAF-BのAma-ESと反応した領域(アミノ酸残基1〜107)について大腸菌による組換え体SAF-B(rSAF-B)を作製して、これと反応するT7ファージ無鞭毛型原虫cDNAライブラリーのスクリーニングを行い、SAF-Bと反応する数種類の原虫側候補蛋白質分子を同定した。さらに、それぞれの候補分子のT7ファージコード領域について、ウサギ網状赤血球ライセートを用いたin vitro発現系で組換え体蛋白質を合成し、rSAF-Bとの蛋白質分子同士での反応性を検討したところ、組換え体sialidase homologとribosomal protein L18aについてはrSAF-Bとの結合を示す結果が得られた。SAF-Bにはクロマチンの構造形成・維持やmRNAの転写調節、RNAプロセッシングへの関与といった様々な機能が報告されている。T.cruzi感染時に見られる病態が、本研究においてSAF-Bとの相互作用が明らかとなった原虫分子による宿主SAF-Bの機能修飾の結果であるならば、これらの分子間作用の更なる解析は、病態の発生機構の解明のみならず、これらの分子をターゲットとした治療法の開発につながる可能性が期待できる。以上の結果に関しては、第74回日本寄生虫学会大会で発表の予定である。
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