研究概要 |
病原真菌Cryptococcus neoformansのシグナル伝達系に関して、ゲノム科学的および分子遺伝学的アプローチを試みた。まず,遺伝子破壊を中心とする研究の円滑な遂行を目的として,ウラシル合成系遺伝子URA5の完全欠失株TAD1を作出した。本菌株は,URA5遺伝子の全領域を人為的に除去しているが,従来用いられてきた点突然変異などをもつ変異株ような復帰突然変異が起こらず,さらに,相同組換えによる遺伝子導入効率にも優れていた。また,本菌株の作出の過程で,PCR,遺伝子銃による遺伝子導入法など,基本的な実験操作の条件検討を行った。本菌株に関して,原著論文として英文専門誌に掲載した。続いて,本菌株を用いて,MAPKシグナル伝達関連遺伝子CnBCK1の遺伝子破壊による機能解析を行った。形質転換に供試した遺伝子断片は,CnBCK1遺伝子の上流域および下流域それぞれ1kbによりマーカー遺伝子URA5を挟み込んだものであり,オーバーラップPCR法により作成した。遺伝子破壊効率は,全形質転換株中約50%であった。得られたもののうちの一つをTAD6として,その後の解析に用いた。本菌株は高温感受性であり,30℃では生育に軽微な遅延が見られ,37℃では生育が停止した。現在,温度以外の環境ストレス(浸透圧,抗真菌活性物質)に対する生育および細胞形態への影響,交配能,病原性について検討中である。それに加え,シグナル伝達系遺伝子CnNik1についても,現在構造解析を行っている。
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