16年4月に大阪市にて開催された第77回日本細菌学会総会において、これまでの研究成果について報告を行った。16年度はこれらを発展させる形で研究を進め、枯草菌細胞膜の主要脂肪酸である二種の分岐鎖脂肪酸が数種のグラム陽性病原細菌に増殖抑制的に作用する事を見出した。この結果については16年10月に広島市にて開催された第57回日本細菌学会中国・四国支部総会、ならびに11月に仙台市にて開催された第20回日本微生物生態学会において報告を行った。溶菌誘導機構については枯草菌をモデルとした解析を進め、細胞壁をアクリルアミドゲル中に添加したザイモグラム解析により溶菌酵素の検出を行い、その結果、細胞膜の分岐鎖脂肪酸である12-メチルテトラデカン酸が既成の細胞壁溶解酵素の活性化、ならびに新規溶菌酵素の発現を誘導している可能性が示唆された。またLC/MS/MSによる脂肪酸添加前後の発現タンパク質の比較解析より、脂肪酸添加においてβ-ラクタム系抗生物質の分解ならびに修飾酵素の発現が誘導される事が確認された。ペニシリンに代表されるβ-ラクタム剤はペニシリン結合タンパク質に結合する事により、細菌の新規細胞壁合成を特異的に阻害しする殺菌的薬剤として知られるとともに、対数期増殖細胞に溶菌を誘導する事象が古くより報告されている。このantibiotic-induced-lysisと脂肪酸による溶菌との関連について解析を行った結果、両者の間に興味深い類似性が示された。これら16年度の研究成果については、17年4月に東京都にて開催される第78回日本細菌学会総会にて報告を行うとともに、国際誌への論文発表により、広く情報を配信する予定である。
|