病原性大腸菌は腸管出血性大腸菌、腸管病原性大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管侵襲性大腸菌、腸管凝集粘着性大腸菌の5つのカテゴリーに分類される。本研究では病原性大腸菌について病原遺伝子検出による迅速なカテゴリー推定及び機能する病原因子の検出法の開発を目指している。 前者の病原遺伝子検出によるカテゴリー推定として、5つのカテゴリー型別を可能とする9種類以上の病原因子遺伝子同時増幅による病原性大腸菌同定は、分離菌の病原性判定だけではなく臨床での迅速な下痢起因病原性大腸菌の診断に応用できる。本年度では病原性大腸菌すべてのカテゴリーを決定するmultiplex PCR法に関して、10種類及び12種類の病原因子を同時に検出できるmultiplex PCR法を確立た。この成果についてはMicrobiology and Immunologyに発表予定である(掲載号49-6)。また、EHEC multiplex PCR系に関しても新規ベロ毒素検出プライマーを開発し、検出系の構築を試みた。この成果に関しては日本細菌学会にて発表(平成16年4月)した。 後者の病原因子の検出に関しては、mRNAをモニタリングすることで、感染に重要な役割を担う付着・分泌機能に関与する病原因子等の産生条件を明らかにすることを試みた。そこで、本年度では病原因子発現検出系に関してはリアルタイムPCRを用いて発現パターンの厳密なmRNA定量を検討した。その結果、血清型が異なるEHECでの病原遺伝子発現時におけるmRNA発現パターンがそれぞれ異なることが明らかになった。また、これらのmRNA発現パターンは近年発見された新たな発現制御因子pchの発現パターンと一致していた。これら病原因子の発現条件の解析は、病原因子検出法確立に活用できると同時に簡易な病原性菌の分離法の開発、病原因子の遺伝子発現制御機構の解明への道を開くことが期待される。
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