HTLV-1のRexはウイルスmRNAの核外輸送を担うウイルスタンパク質である。Rexが正しく機能するためにはCRM1やRanBP3に代表される細胞性因子との直接または間接的な相互作用が不可欠であり、これらの細胞内での発現制御はウイルス複製に大きく影響すると考えられる。そこで本年度はウイルス宿主細胞(CD4+T細胞)におけるCRM1の発現様式を調べた。まずヒトPBMCより単離したCD4+T細胞をPMA、ionophore、IL2により刺激したところ、再現性よくCRM1タンパク質量の増加を認めた。またstaurosporineの添加により発現量増加が阻害されたことから、細胞内シグナルとしてPKCの関与が考えられた。同刺激時のCRM1 mRNA量を経時的に追跡したところ刺激時間に伴いmRNA量が増加するのを認めた。さらにpreliminaryな実験結果ではあるが、mRNA量が増加する以前にCRM1タンパク質量が増加することも認めており、これらの結果はCRM1の発現が転写と転写後の2段階で調節を受けている可能性を示唆している。 CRM1の発現様式を更に調べるためには上記のCD4+T細胞を使う方法以外にCRM1の発現量が元々低い細胞株を同定し解析していく方法が考えられた。しかしCRM1は細胞の生存に関係する諸現象に広く利用されているタンパク質であるためかこれまで調べた細胞株は全てCRM1高発現細胞であった。しかし最近CRM1発現量が極めて低いヒト細胞株の同定に成功した。今後はCD4+T細胞とこの細胞株を利用しCRM1発現制御をより詳しく解析していく予定である。 Rexの多量体化に必要な因子についてRIP法(Ribonucleoprotein免疫沈降法)などを利用し、解析を進めている。諸条件を至適化し因子の同定につなげる予定である。
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