研究概要 |
HTLV-1のRexはウイルスmRNAの核外輸送を担うウイルスタンパク質である。Rexの機能にはCRM1やRanBP3に代表される細胞性因子との直接または間接的な相互作用が不可欠であり、これらの細胞内での発現制御はウイルス複製に大きく影響すると考えられる。そこで本年度はCRM1を中心にそれらの発現様式を調べた。まず細胞周期に依存的なCRM1発現制御の有無を調べるため、既存の細胞周期調節試薬(ノコダゾール等)を利用した。その結果CRM1はG1,G2,M期といった細胞周期でも一定の発現量(タンパク質レベル)を保っていることが分かった。次に分化に伴うCRM1発現制御について検討した。この際HL60細胞を利用した。この細胞株はPMAの刺激によりマクロファージ様の細胞に分化することが報告されている。PMA刺激後分化を形態観察で追跡し同時に細胞中のCRM1発現量を測定したところ、分化前後において発現量に変化はなかった。この際RNAレベルでもその発現量に変化がないことが確認された。またCRM1以外にRexの機能に必要であるRanBP3やImportin-beta等の発現量もRNAレベルにおいて分化前後で変化しないことが分かった。さらにアポトーシスにおけるCRM1発現制御についても種々のアポトーシス誘導刺激試薬を利用することで検討した。その結果アポトーシス前後においてCRM1発現量の変化は確認されなかった。これらの結果から、CRM1は細胞の多様な生理反応に必須のタンパク質であり、種々の細胞刺激によらず一定量発現していることが細胞にとって必須であることが示唆された。今後はHTLV-1感染による(主にHTLV-1のTaxタンパク質による)様々な細胞へのストレスに対応した細胞性因子の発現制御があるのか調べる予定である。
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