水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)の糖タンパクgB、gE:gI、gH:gLはウイルスの宿主細胞への吸着、侵入と細胞融合に重要であり、特にgH:gLはこの細胞融合を単独で誘導でき、免疫の標的としても重要である。しかしながら、gHではそのサイズの大きさ(118kDa)に関わらず、conformational epitopeに対する抗体以外ほとんど、あるいは全く検出されず、immunogenic linear epitopeが存在しないという特徴的な抗原性を有している。今回、この現象がgH:gLの立体構造に依存するのかどうかを明らかにし、gB、gE:gIと共に立体構造の持つ抗原性の生物学的意義について検討している。まず、各糖タンパクの免疫誘導能を確認するためヒトにおける遅延型過敏反応を検討したところ、gH:gLはgB、gE:gI同様の強い免疫原性を有していた(Vaccine 2003)。ELISAを用いて定量的にconformational及びlinear epitopeに対する抗体産生量を検討したところ、gE:gIで免疫した場合にはconformational及びlinear epitopeの両方に対して抗体が誘導された。これに対し、gH:gLでは未変性抗原で免疫した場合には抗体が検出されなかったのに対し、変性抗原の免疫でlinear epitopeに対する抗体が誘導された。また、従来gH:gLに対する中和抗体は唯一のconformational epitopeを認識するものしか検出することができなかったが、我々の検討でlinear epitopeも中和の標的となることが示唆された。そこでgHを6つの断片にして発現・精製したリコンビナントタンパクでモルモットを免疫したところ、抗gH抗体が誘導され、タンパクの立体構造が自然に近い状態と考えられる蛍光抗体法において、6つのうち少なくとも5つの領域に対する抗体がgHを認識した。そのうち2つの領域に中和抗体を誘導できた。現在これらの抗体の中和活性を詳細に検討中である。以上より、本来gH上に存在する中和の標的を含むlinear epitopeを認識する抗体誘導がgH:gLの立体構造により生体内で妨げられていると考えられた。
|