細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を、細胞分裂なしに分化誘導させるin vivoの実験系を確立した。外来抗原に暴露された際、ナイーブCTLが分裂するか否かは、抗原の質の他、排除すべき抗原量とその抗原に反応し得るCTL前駆細胞の数的なバランスによると考えられる。我々は、CTL前駆細胞の多い生体内環境を仮定するため、HIV env gp160特異的T細胞受容体(TCR)αβ鎖トランスジェニックマウス自体を、また、前駆細胞の少ない生体内環境を仮定するため、上記TCRのβ鎖のみのトランスジェニックを用い、これらマウスに抗原としてgp160発現細胞を投与後、gp160に対する細胞傷害活性をin vivoキラーアッセイにて調べた。その結果、TCRβ鎖トランスジェニックでは、少ない前駆細胞は激しい細胞分裂を行いながらエフェクター機能を獲得していたが、前駆細胞の多いTCRαβ鎖トランスジェニックマウスにおけるエフェクターCTLは細胞分裂を行っていなかった。また、より詳細な検討をすべく、細胞分裂マーカー(CFSE)を指標に、分裂を行っていない細胞を収集しin vitroでのキラーアッセイを、また細胞分裂阻害剤を用い、人為的に細胞分裂をブロックしたCTLでのキラーアッセイを行い、in vitroでも細胞分裂をなくして細胞傷害活性を獲得することを明らかにした。このことより、生体は外部から侵入したウイルス等を排除する際、その量に応じて効率的にCTL前駆細胞を増殖させることが示唆された。細胞分裂とエフェクター細胞の分化誘導は平行して起こっていると考えられて来たこれまでの概念に対する新しい提唱である。
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