Tリンパ球は抗原提示細胞に出会うと、TCR受容体(TCR)を介した刺激を受け、ナイーブ細胞からエフェクター細胞へと分化する。我々は、ウイルス感染や腫瘍免疫の中心を担っている細胞障害性T細胞(CTL)の分化誘導と細胞分裂とに関する研究を行った。まず、これまで我々が樹立したHIV抗原に対するTCRトランスジェニックマウスを用い、抗原特異的T前駆細胞の多いマウスと少ないマウスを作成し、抗原を発現しているトランスフェクタントによりin vivo刺激を行った。その結果、抗原特異的T前駆細胞の多いマウスでは、抗原刺激を受けたCTLが、細胞分裂なしにキラー活性を有することが明らかとなった。この現象はin vitroの実験系においても証明された。さらに、IL-2Rシグナルの阻害下では、細胞増殖行っているCTLもキラー活性を獲得できず、CTLの分化誘導にはTCRやIL-2受容体(IL-2R)を介した刺激は必須であるものの、細胞増殖は必要でないことが明らかとなった。このことは、外来抗原が大量に体内に侵入してきた際、対応するT細胞が増殖し機能分化する一方、抗原がT前駆細胞に対し微量である場合や、抗原性が弱い場合などは、細胞分裂なしに外来抗原を排除している可能性を示唆している。さらに、弱い抗原刺激による細胞分裂と機能分化との関係を、ホメオスターシス増殖(HP)と自己免疫疾患発症のマウス実験系を樹立し確認した。HPでは、細胞分裂に従いCTLのキラー活性は増強したが、HPの減弱と共にキラー活性および自己免疫疾患とも消失した。これらの結果より、in vivoにおける細胞増殖と分化は、抗原特異的T前駆細胞と抗原の量と質により調節されていることが示唆される。
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