研究概要 |
本研究は、低酸素状況下において誘導される転写因子Hypoxia Inducible Factor-la (HIF-1α)による免疫系の制御機構を明らかにすることを最終目的とし、その第一歩として、HIF-1αのB細胞の分化制御の機構の解明を目指した。 HIF-1αにより転写される主な遺伝子である解糖系関連酵素群や糖輸送蛋白質に着目し、骨髄中のB細胞分化における糖輸送蛋白質の発現並びに、解糖系への依存性を検討した。野生型マウスより調製した骨髄未熟B細胞を用いてin vitroでのB細胞の分化の系に解糖系の阻害剤である2-deoxy-D-glucose (2-DOG)を添加し、B細胞分化における2-DOGの感受性を検討した。その結果、preB細胞は他に比べて細胞の割合が極端に減少していた。また、蛍光標識グルコース(2-NBDG)をin vivo投与し、骨髄細胞の2-NBDG取り込みを検討したところ、proB細胞の細胞集団に2-NBDGを取り込む細胞が存在した。一方、糖輸送蛋白質GLUT-3の発現を調べた結果、後期proB細胞には弱いながらも発現が認められたが、preB細胞には発現は認められなかった。驚くことに、GLUT-3は更に分化の進んだ未熟B細胞に高い発現が示され、GLUT-3はB細胞の分化に伴いその発現が制御されていることが明らかとなった。更に、野生型骨髄細胞で観察されたグルコース添加によるB細胞分化の促進はHIF-1α欠損骨髄では見られなかった。これらの結果から、後期proB細胞からpreB細胞への分化過程にHIF-1αにより制御されるグルコースの取り込みとそれを用いたエネルギー変換が重要であることが示唆された。現在、他の糖輸送蛋白(GLUT-1)の正常骨髄未熟B細胞での発現、並びにそれら(GLUT-1,3)のHIF-1α欠損骨髄B細胞における発現を解析中である。更に、蛋白質レベルで観察された結果を遺伝子レベルで網羅的に解析し、検証するために実施するDNAマイクロアレイ解析に充分な数のHIF-1α欠損キメラマウスを作成中である。
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