研究概要 |
甲状腺乳頭癌は一般的に予後が良いとされているが、約10%の症例は肺、脳、骨などの遠隔転移から死に至り、これらの転移巣に対しては放射性ヨード(^<131>I)によるアイソトープ治療が唯一の治療である。甲状腺癌の予後を規定する因子は原発巣の大きさ、年齢、転移の有無と言われているが、未だ予後を予測する良いマーカーは得られていない。また、甲状腺癌は進行が遅いが、転移率は高く、5年から10年の経過を見ないとその予後はわからないのが現状である。研究代表者は甲状腺乳頭癌では他の癌と異なり若年者が高齢者に比し、アイソトープの治療効果が良い事に着眼し、まず、若年者(30才未満)と高齢者(50才以上)の乳頭癌の手術原発巣でヨード代謝に関連する遺伝子群(NIS,Tg,TPO)の発現量を見たが、両群では差を認めなかった。そこで、高リスク群(高齢者で病理所見で乳頭癌が甲状腺外に転移・浸潤が見られた症例)と低リスク群(若年者で病理所見で乳頭癌が甲状腺内に限局する症例)間の乳頭癌の組織において発現量が異なる遺伝子をマイクロアレイを用いて検討した所、両群で著しく発現量に差がある11遺伝子を見出した。更に検討を重ねた結果、11遺伝子のうち3遺伝子については同年齢(老年者)の高リスク群(病理所見で癌が甲状腺外に転移・浸潤が見られた症例)と低リスク群(病理所見で癌が甲状腺内に限局する症例)間でも発現量が著しく差があることを見出した。現在、甲状腺癌の腫瘍マーカーとしてはサイログロブリン(Tg)が唯一であるが、抗Tg抗体が存在する際には測定値は正確ではなく、また炎症によって細胞が破壊される際にも上昇が認められるため、特異性に優れているとは言い難い。よって研究代表者が新たに見出したこれらの遺伝子は新しい甲状腺癌の遺伝子マーカーとして外来診療で有用な可能性が高く、日常の検査として用いる実用化にむけて検討をしていく予定である。
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