甲状腺乳頭癌は一般的に予後が良いとされているが、約10%の症例は肺、脳、骨などの遠隔転移から死に至る。甲状腺癌には予後の良い低リスク群と予後の不良な高リスク群が存在し、今まで臨床的には原発巣の大きさ、年齢、転移の有無などの予後との関連が示唆されてきたが、分子生物学的レベルではどのような因子が予後に影響するかは明らかではなかった。サイログロブリン(Tg)が今まで甲状腺腫瘍の唯一のマーカーであったが、他の炎症性甲状腺疾患でも上昇が認められ、サイログロブリンに対する抗体の存在下ではその測定値が不正確であるため、予後の予測が可能な良いマーカーは得られていないのが現状である。 研究代表者は甲状腺癌の転移に対する放射線治療(内照射)が若年者で老年者より治療効果が良いことに初め着眼したが、次に甲状腺癌の予後自体が良好な群と不良な2群が存在することに着目し、甲状腺乳頭癌の高リスク群(高齢者で病理所見で乳頭癌が甲状腺外に転移・浸潤が見られた症例)と低リスク群(若年者で病理所見で乳頭癌が甲状腺内に限局する症例)間において発現量の著しく異なる遺伝子が予後を規定する因子であると考えた。そこで高リスク群と低リスク群の2群間で発現量が著しく異なる遺伝子をマイクロアレイを用いて検討した。 その結果、両群で著しく発現量に差がある11遺伝子を見出し、このうち3遺伝子の発現量については、年齢よりもむしろ病理学的な悪性度とより強く関連を持つことか示唆された。この結果は前年度2004年12月に日本国内で特許の出願を行ったが、審査の結果、2005年12月に日本科学技術振興機構(JST)による支援下でアメリカ及びヨーロッパ諸国での特許出願のためにPCT出願を行うこととなった。現在は企業との連携により共同研究を進めて、日常の臨床検査としての実用化をめざしている。
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