目的:外傷登録や事故サーベィランスが整備された際、それをどのように活用することができるか。その一例として、日本スポーツ振興センターが運営する災害共済給付制度の災害報告書をもとに、中学校の管理下で発生した自転車事故とヘルメット着用義務化の効果を検討した。 方法:某県公立中学校のうち生徒に自転車通学を許可している中学校214校を対象に質問紙調査を実施、107校が回答に応じたが、必要な情報すべてを提供したのは56校であった。質問紙では、平成13〜15年度に発生した通学中の自転車事故に関する情報(被災者の性・学年、頭部・顔部外傷の有無)、自転車通学者数、ヘルメット着用義務の有無などについて回答を求めた。本研究の実施に際しては東京大学医学部倫理委員会の承諾を得た。 結果:ヘルメット着用を義務づけている中学校は56校中35校。自転車事故は過去3年間に125件発生、すべてが負傷例で、そのうち14件が頭部、26件が頭部あるいは顔部を負傷していた。年間1000人あたりの自転車事故発生率はヘルメット着用を義務づけている中学校で4.86、義務づけていない中学校で6.53、有意差はみられなかった。しかし、頭部外傷が生じた自転車事故の発生率はヘルメット着用を義務づけていない中学校(1.11)のほうが義務づけている中学校(0.37)より高かった(リスク比:2.97、95%信頼区間:1.03-8.56)。この結果はとりわけ男子生徒において顕著にみられた(リスク比:4.82、95%信頼区間:1.21-19.25)。 考察:既存のデータで公共政策(ヘルメット着用義務化)を評価し、根拠に基づく政策の立案・実施が可能であることを示した。こうした取り組みを進めていくためにも、既存のデータを活用しやすくするような外傷登録制度や事故サーベイランスの整備はわが国において急務といえる。 その他:タイ・コンケン病院の外傷登録データの活用事例は、Accident Analysis and Prevention 2005; 37: 833-42に発表した。
|