研究概要 |
本年度は6月と8月にそれぞれ2週間づつパラオ共和国を訪れ,調査を行った.6月にはパラオ共和国環境保健局が収集した2000-2001年にかけてのデング熱アウトブレイクの記録を分析した.このアウトブレイクでは,1000名以上がデング熱と診断され,そのほとんどについて性・年齢・発症年月日・発症時の居住地についてのデータが利用可能である.感染が伝搬するパタンを地理情報システムで分析するために,パラオ共和国における行政区の境界線をデジタル化し,地名についても綴りを統一した.この作業は,環境保健局・地図局との共同作業でおこなった.感染データを地理情報システムに取り込んだのち,行政区ごとの月別発生率・累積発症率を計算し,それをもとにMoran's Iなどの空間統計値を計算した.その結果,2000-2001年のデング熱アウトブレイクは,パラオ共和国の首都であるコロールで発生したのち,週末の移動によってすこしづつパラオ全域に広がり,12月のクリスマス休暇によって全国に蔓延する過程を明らかにできた. 8月の調査では,デング熱発生の環境要因を明らかにするために,感染患者群と性・年齢・居住地をマッチングさせたコントロール群との比較対象研究を行い,居住環境のなかでも排水システムの不備がデング熱感染のリスクであることを明らかにした.さらには,道路,建物,人口動態などのデータを地理情報システムに統合し,デング熱感染リスクとの関連を分析した. これまで,パラオ共和国におけるインフラ,土地利用,行政区分,人口静態,人口動態などの基礎的なデータを地理情報システムで管理し,複数の時期におけるリモートセンシング衛星データをそこにオバーレイする作業を完了している.今後は,来年度以降本格化すると考えられる首都移転の影響評価を視野にいれながらフォローアップを行う予定である.
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