研究概要 |
本年度は8月から9月にかけて2週間の現地調査を実施した.現地調査においては,(1)カウンターパートであるパラオ保健省環境衛生局が継続的に収集しているデング熱のモニタリングデータを分析し,特に空間統計学のひとつであるSATSCAN統計解析によるアウトブレイクの空間的時間的検出システムを構築した.この分析によって,2004年度8月にみられたデングの小規模な流行が,国外からの訪問者による疾患の持ち込みによって説明されることが示唆された.(2)また,デング熱のベクターである,Aedes属の蚊についてのモニタリングシステムを確立した.Aedes属のなかでも,比較的近年になってパラオに侵入した種の環境分布を把握することを目的に,首都コロールに36箇所の定点観測点を設置し,オビトラップによる個体群サイズの変動を推定するシステムを構築した.(3)さらに,パラオにおける深刻な健康問題である食品由来の感染症コントロールのための基礎的データとして,パラオの人々が一般的に摂取する食品のバクテリア汚染レベルを,簡易培養法による指標細菌群レベルの推定によって評価した.その結果,対象としたサンプルのおよそ半数が国際基準により安全ではないと判断された.汚染の原因としては,食品加工および販売現場における不適切なプロセスが考えられ,今後の改善の必要性が示唆された.(4)IgM抗体による簡易アメーバ症検出キットをもちいたアメーバ症感染のスクリーニングも実施した.このような分析結果は,インフラ,土地利用,行政区分,人口静態,人口動態などの基礎的なデータとともに地理情報システム(GIS)に統合され,複数の時期におけるリモートセンシング衛星データによる環境評価との関連性分析をすすめることで,これから本格化する首都移転,周回道路建設の包括的な影響評価をめざす予定である.
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