研究概要 |
日本を始め他の先進囲において労働災害による死傷者数は過去10年の間に減少傾向にあるが、労働災害発生率の国による格差は変化していない。本研究では、労働災害死傷者数の国際間格差を明らかにし、その原因を考察することを目的とした。 本年度は労働災害死傷者数を比較するにあたり、ILOとOECDのデータベースより労働災害件数および人口関連の各国統計を収集し、労働災害発生率等を算出した。さらに、一般的な事故災害要因として、労働人口の高齢者割合および産業構造について調べ、その影響を検討した。 調査対象のOECD加盟国が1993〜1998年の間にILOへ報告した労働人口10万人あたりの全労働災害件数の各国年間平均発生率は17〜4608で分布し、死亡災害発生率は1〜12の範囲で分布した。Heinrich's Lawに従って死亡災害の件数を基準に全災害件数との比を算出し、国際比較の指標「total/fatal ratio(以下T/F ratio)」としたところ、T/F ratioは約374倍の格差を示した。T/F ratioは高齢労働者割合が高い国で低く(r=-0.560,n=21,p=0.0008)、第3次産業割合の高い国で高かった(r=0.477,n=26,p=0.014)。労働災害定義の同じ国について(Japan, Ireland, HungaryおよびUK)産業種を限定して比較したところ(建設業)、T/F ratioの格差は縮まったが、依然6.8倍の格差が存在した。 T/F ratioがその国の報告する労働災害事故の重篤性を示す可能性が一部の危険因子より説明されたが、対象とする産業を限定し集計の際に各国の定義する労働災害の条件をそろえてもT/F ratioには6倍以上の国際間格差が示された。次年度は各国の労災補償保険の制度に関して、調査する予定である。
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