【背景】身体活動の推進は健康科学上の重要課題である。これまで、行動変容に関する多くの研究は個人の認知心理学的要因に焦点をあててきたが、それだけでは人々の行動の説明が困難で、近年は個人を取り巻く環境要因に関心が集まっている。【目的】そこで本研究の目的は身体活動に影響を与える環境要因評価尺度を開発することとした。【方法】先行研究の検討により、身体活動の国際比較に用いられているIPAQ (International Physical Activity Questionnaire)の環境評価質問紙の翻訳を行い、信頼性・妥当性を検討することとした。【翻訳】IPAQ Committeeより翻訳の許可を得るとともに、質問内容の意図を確認した。その後、研究者が翻訳を行い、本研究とは関係のないバイリンガルに逆翻訳を依頼した。逆翻訳英語版をIPAQ Committeeに送り、翻訳の妥当性を確認した。【信頼性・妥当性の検討】信頼性は成人103名(男性62%、平均年齢±標準偏差=40.4±13.4)を対象に10日間隔の再テスト法による検討を、妥当性は成人1118名(男性:56%、平均年齢±標準偏差=27.8±13.6)を対象にIPAQにより評価された身体活動量との関連を検討することにより行なった。【結果】11の質問項目の信頼性は良好で、再テストによる相関係数はr=0.78〜0.90の間にあった。各項目の回答と身体活動量の関連を一元配置分散分析により検討したところ、11項目中の2項目(歩道の存在、社会的支援)において環境が良いほど身体活動量が有意に多かった。【考察と結論】本質問紙の信頼性は良好であった。妥当性の検討では2項目において身体活動量との関連が認められた。環境要因の検討は多様性のある集団を対象とすることが重要と指摘されていることより、他の項目については国際比較も含めて、より多様な地域、集団での検討を行う必要があるものと考えられた。
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