日本人を対象とした大規模前向きコホート研究(JACC Study)では、糖尿病歴がある者の膵がん死亡リスクが有意に上昇した。そこで、コホート内症例対照研究を用いて、ベースラインでの血清インスリンやフルクトサミン濃度とその後の膵がん死亡リスクの関連を検討した。追跡期間中(99年末まで)膵がんで死亡した265人のうち、保存血清のあった85人を本研究の症例とした。対照は、コホート参加者から症例と性、年齢、地域でマッチングし、1対3の割合で抽出した。対照の血清マーカーの分布によって全対象者を4分位に分類した。Conditional logistic modelを用いて、最も低い4分位に対する、その他の4分位の膵がん死亡リスク(オッズ比)を算出した。 血清インスリンの平均値(標準偏差)は症例群では12.7±10.9、対照群では11.7±10.0であり、血清フルクトサミンの平均値(標準偏差)は症例群では302.8±56.8、対照群では296.2±40.1といずれも有意差は見られなかった。インスリンが高いほど膵がん死亡リスクが上昇する傾向は見られたが統計学的に有意ではなかった。血清フルクトサミンと膵がん死亡リスクの間に有意な関連は認めなかった。本研究で血糖コントロールの指標と膵がん死亡リスクの間に有意な正の関連を認めなかった。理由として、症例数が少ないこと、採血条件や長期間保存による影響があることが考えられる。今後追跡期間を延長し、血清マーカーと膵がんリスクを検討する予定である。
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